Wp/ain/アイヌ語学習/アイヌ語の発音と表記について

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まずは聞いてみましょう edit

アイヌ語の音源:YouTube「アイヌ語」の検索結果

アイヌ語で使われる3種類の文字 edit

アイヌ語は元々文字を持たない言語だったが、江戸時代ごろから日本人やロシア人などによって記録がされ始めた。このことから、アイヌ語は現在、主に3種類の文字によって表記されている。アルファベット(ここではキリル文字とラテン文字のことを指す)の名前は定まっていない。これからの流れによってはキルディン・サーミ語のように、呼び方を決めないという選択もできる。

仮名 edit

日本語などで使われている文字。カタカナを使うことが多い。日本語と発音が異なる文字があるので日本語話者には注意が必要。

  • 使われる文字:下の二つの表に記載のもの。計約八十種。記号は長音符「ー」のほか、アクセントを示すために「 ⃣」や「´」などの記号が使われることもある。
  • 長所
    • アイヌ語を習う人の多くが日本語を母語としているため、そのような人には文字を新たに覚える負担が小さい。
  • 短所
    • 日本語にある文字だけでは正確な音を表記できない。正確な発音を表記しようとして小書き仮名などを使うとコンピューターなどで正しく表示されないことがある(現在は多くの機器で対応しているため、この影響は小さい)。
    • 日本語などの仮名を使う言語を母語とする人以外には学習の負担が大きい。

キリル文字 edit

ロシア語などのスラブ系の言語やそれに隣接する東欧・アジア北部の言語などで使われている文字。

  • 使われる文字:子音字11〜12種「к,ш(+с),ч(+ц),т,п,(һ,)х,р,н,м,й,ў」、母音字5種(а,и,у,э,о)の、計16〜19種。記号はトレマ「¨」又はアポストロフィ「’」、アキュートアクセント「´」、マクロン「¯」、サーカムフレックス「^」の4種を使う[1]
  • 長所
  • 短所

ラテン文字(ローマ字) edit

世界中の多くの言語で使われている文字。

  • 使われる文字:子音字11〜12種(k,s,c,t,p,h(,x),r,n,m,y(j,ȷ),w(v))、母音字は5種(a,i(ı),u,e,o)の、計16〜17種。記号はアキュートアクセント、マクロン、トレマまたはアポストロフィ、サーカムフレックス「^」の4種を使う。。
  • 長所
    • 世界中の多くの地域の人にとって比較的楽に学習できる。
  • 短所

1.音節 edit

ここでは、アイヌ語の発音の仕方を解説する。アイヌ語の発音は、音節というものを単位にして考えるとわかりやすい。アイヌ語の音節には、子音+母音の開音節と、子音+母音+子音の閉音節がある。

i.開音節 edit

アイヌ語の開音節は、概ね日本語の五十音図と一致する。(説明のため、日本語のものとは少し順番を変えてある。)

開音節の表
ローマ/キリル a/а i(ı)/и u/у e/э o/о
ø(Ꞌ/ꞌ)[2] エ/𛀀[3]
k/к
t/т [4] ツ/トゥ/ツ゚/ト゚
p/п [5]
r/р
c/ч サ゚/チャ ス゚/チュ セ゚/チェ ソ゚/チョ
s/ш
h/һ(х)
n/н
m/м
y(j)/й[6] [7] 𛄡/イェ
w(v)/ў ヰ/ウィ[8] [7] ヱ/ウェ ヲ/ウォ

ア行(母音) Aa, Iıi, Uu, Ee, Oo / Аа, Ии, Уу, Ээ, Оо edit

日本語(標準語・共通語・関東弁)のア行とほぼ同じ。ただし、ウ(ウ段にある他の行の音も同様)は日本語のウよりも唇を丸めて舌を奥に引いて発音する(日本語話者にはオのように聞こえることもある)。ア,イ,ウ,エ,オの順に、ラテン文字ではA/a, I/i, U/u, E/e, O/oを、キリル文字ではА/а, И/и, У/у, Э/э, О/оを使用する。

厳密な発音を示す。

  • ア a а, イ i иは日本語のものとほぼ同じ。[a],[i]
  • ウ u уは、日本語の「ウ」とは異なり、[u] よりも若干口の丸めの弱い、広がった [u̜]。日本語より唇を丸めて下を奥に引くようにして発音する。日本語話者には「オ」に聞こえることがある。
  • エ(𛀀) э eは、日本語の「エ」に近いが少し狭い [e]。
  • オ o оは、日本語の「オ」に近いが少し狭い [o]。
  • 単語の最初に来る、アクセントのある母音は声門閉鎖を伴う: [ʔá, ˈʔa]。特に表記しない。
  • 例)𛀀 e э 〜を食べる | プ pu пу 倉

カ行 / Kk(Gg) / Кк(Гг) edit

日本語のカ行とほぼ同じ。ラテン文字ではK/k、キリル文字ではК/кを使用する。無声音(清音)で発音されることも、有声音(濁音)で発音され、ガ行のように聞こえることもある。日本語のように鼻濁音になることはない。

  • 例)キ ki ки 食事する | イク iku ику 祈る

タ行 / Tt(Dd) / Тт(Дд) edit

日本語のタ行とほぼ同じ。音節tiは存在せず、チ,ci,чиに変化する。ラテン文字ではテー/ティー(T/t)、キリル文字ではテー(Т/т)を使用する。無声音(清音)で発音されることも、有声音(濁音)で発音されることもある。

  • 例)ト to то 日 | チセ cise чисэ 家

パ行 / Pp(Bb) / Пп(Бб) edit

日本語のパ行とほぼ同じ。

  • 例)

ラ行 / (R̥r̥)Rr / (Ҏҏ)Рр edit

アイヌ語のラ行は基本的に日本語のものと同じである(日本語のラ行でも通じる)が、日本語[9]より少し複雑である。日本語のラ行でも通じる。

維基辞書「付録:アイヌ語の発音表記」より抜粋)具体的な発音は、

  • 舌の先は1回だけ歯茎に触れる。
    より正確には触れるというよりも舌先でタップするのである。タップとは日本語の「舌打ち」「舌鼓」にあたる。声を出さずに舌打ちをすると「タッ」とも「ツッ」とも聞こえる(英語では tut-tut)タップ音がする。神謡におけるアイヌ語の r では実際にタップ音が聞かれることもあるが、話し言葉ではそれよりも弱くタップすると同時か少し早めに母音を発声するのである。
  • [l] よりは [r] に近い [ɾ]。
  • 語頭では、「[t] と [d] の中間の音」と、さらに [ɾ] との中間音に聞こえる。
    21世紀初頭の今から3~4世代程度昔の日本語話者が、英語 radio を「ダヂオ」に近く発音していたことに似る。
  • n の後では、[d] に近い [dɾ]。
  • k, p の後では、無声音化して [ɾ̊]。
  • t の後では、無声音化し、更に摩擦を帯びる [ɾ̊ˢ]。
  • s の後では、完全に無声摩擦の [ɾ̊s]。

日本語のラ行でも良いので、あまり気に病む必要はないと思われる。ラ行音と摩擦音の発音に悩まされるのはどの国の外国語学習者にもよくあることである。

サ゚行(チャ行) / Cc(Zz) / Чч(Ҹҹ), Цц(Џџ) edit

日本語のチャ行のように発音される。ツァ行のように発音しても通じるが、そう発音されることはあまりない。また、もともと日本語になかった音のため、カナ表記には揺れがある。ここで示したもののほか、この行の音のために独自の仮名を創る試みもある。(ここを参照。)ラテン文字ではツェー/シー(C/c)、キリル文字ではチェー(Ч/ч)又は発音によりツェー(Ц/ц)を使用する。無声音(清音)で発音されることも、有声音(濁音)で発音され、ヂャ行のように聞こえることもある。

  • 例)

サ行 / Ss [Ṡṡ, Šš ]/ Шш, Сс edit

日本語のサ行またはシャ行と同じように発音される。つまり、話者によって「サ,シ,ス,セ,ソ」または「シャ,シ,シュ,シェ,ショ」のように発音される。[10]音節si/шиが「スィ」のように発音されることは少ない。ラテン文字ではエス(S/s)、キリル文字ではシャー(Ш/ш)を使用する。必ず無声音(清音)で発音される。

  • 例)アシ asi аши 〜を立てる | サㇰサィヌ Saksaynu Шакшайну シャクシャイン(人名)

ハ行 / Hh / Һһ, Хх edit

日本語のハ行とほぼ同じ。

  • 例)

ナ行 / Nn / Нн edit

日本語のナ行とほぼ同じ。

  • 例)ウニ uni уни 家

マ行 / Mm / Мм edit

日本語のマ行とほぼ同じ。

  • 例)

ヤ行 / Jȷ, Jj, Yy / Йй edit

日本語のヤ行とほぼ同じ。日本語ではエと表記されeと区别されないyeの音がある。イェと書かれることもあるがイ・エのように切らず、他の音と同じように一音で発音する。

なお、Jを使うときのラテン文字の小文字は、分音記号を使うときの可読性などのために、Iも場合と同様に点なしのJを使う事がある。

  • 例)イェ/𛄡 ye/ȷe/je йэ 言う | ユㇰ ȷuk/juk/yuk йук 鹿、獲物全般

ワ行 / Ww, Vv / Ўў edit

日本語のワ行とほぼ同じ。キリル文字で、Ўが入力できなければВ(日本語入力ではヴェーと入力すれば出てくる)で代用しても良い。

  • 例)

濁音について edit

アイヌ語では、濁音と清音(有声音と無声音)を区別しない。そのため、カ・タ・サ゚・パ行音が濁ったり、ラ行音が無声音になってタ行音に近く聞こえたりすることがある。有声音(濁音)は、女性よりは男性に、子供よりは大人に、丁寧な発音よりはぞんざいな発音に、シラフではなく酩酊状態のときに表出する。また、鼻音の後や語頭には比較的よく現れる。

ii.閉音節 edit

閉音節は開音節の後(音節末)に子音(音節末子音と呼ばれる)が付いたものである。この音節末子音はカナ表記では主に小書きガナを使って表記する。日本語には現れるが、「っ」や「ん」などとしてしか意識されないない発音が多い。

音節末子音
ローマ字 k t p x/h r s n m y/j w/v
キリル文字 к т п х р ш н м й ў
カナ ッ/ㇳ ㇷ゚ ㇵㇶㇷㇸㇹ ㇻㇼㇽㇾㇿ ㇱㇲ 𛅧/ン/ㇴ ィ/イ ゥ/ウ
それぞれの発音 edit
  • カ、タ、パ行音の子音は、kㇰк、tッㇳт、pㇷ゚п、であらわすが、日本語話者には全て小さい「っ」に聞こえる。これらの発音は、
  • kㇰкは「がっかり」と言ったときの「っ」の発音、
  • tッтは「真っ赤」と言ったときの「っ」の発音、
  • pㇷ゚пは「あっぱれ」と言ったときの「っ」の発音に、それぞれ近い。
  • またsㇱㇲшは「あっさり」「わっしょい」と言ったときの「っ」の発音に近い。
  • x(h)ㇵㇶㇷㇸㇹхは、「樺太アイヌ語での音節末子音」の項を参照。
  • rㇻㇼㇽㇾㇿрは、複雑である。次を参照。
  • n𛅧ンㇴнは
  • mㇺмは
  • y,wはイ、ウとほぼ同じに発音しても変わらないが、

k,s,pの子音が連続するときは、ㇰ、ㇱ・ㇲ、ㇷ゚ではなく日本語のようにッを使うこともあるが、誤解が生じることがある。

•長音(記号「ー」、「¯」) edit

母音の長短は、北海道アイヌ語と千島アイヌ語では区別されないが、樺太アイヌ語では区別される単語がある。このうち、長母音で発音される単語は、

  1. 単音節かつ開音節の自立語。エ/é/э́ → エー/ē/ээ(э̄)(食べる)など。
  2. 例外アクセントの単語の、アクセントがつく部分。セィ úsey у́шэй → ウーセィ ūsey уушэйなど(「アクセント」の項も参照)。
  3. 渡り音が弱まったもの。イオマテiómante(イヨマテiyómante、ここでのyを渡り音という)→ヨーマテyōmanteなど
  4. これらの単語の複合語。

結局の所、アクセントのある開音節(とその複合語)が長音になるということである。これ以外の部分では、樺太方言でも母音の長短の区別は曖昧である。

長音は、カナでは長音符「ー」で表し、キリル文字とラテン文字では母音の上に「¯」(マクロン)を付ける。表示できない場合は同じ母音を続けて書く[uusey]。また、アクセント表記をする場合、アクセントのある長音(多くの長音にはアクセントがある)にはサーカムフレックスをつける[ûsey]。アクセント表記をする場合でもアクセントがなければマクロンのままである(複合語、sírı + sêsex → sírısēsexなど)。

また、北海道アイヌ語と千島アイヌ語でも、意味は変わらないが、長く発音することが多い単語はある。その例とよく行われている表記法を示した。

  • エー/e/э (はい、承諾の返事)やヒオーィオィ, hioy’oy, хиой’ой(ありがとう)のような、意味は変わらないが、長く発音することが多い単語では、カナのみで長音符を付けることが多い。

•音が切れることを示すアポストロフィー「’」とトレマ「¨」 edit

同じ母音が続く時や、子音+母音となるが、別々に発音する時、アルファベット表記では2つの音を切って発音することを示すために、アポストロフィ「’」やトレマ「¨」を使う。カナ表記ではすでに発音どおりに区別して書かれているため使わない。また、アポストロフィーは音が消えたときにそれを示す為に置かれることもある。

  • テエタ…te’eta/тэ’эта, teëta/тэӭта(なければ「テータ」になる)実際に/te'eta/[teʔeta]と発音されることもある。ちなみに、この音はア行音をはっきり言うときなどに、日本語でもよく現れる。
  • ヒオィオィ…hioy’oy/хиой’ой, hioyöy/гиойӧй(なければ「ヒオヨィ」になる)シサmイタㇰ
  • アニーネ…an ’ine

また、アクセント表記を行うときは「テタ」などの、トレマのつく場所にすでにアクセントがある単語にはトレマを付けない。(teétaとする[11]。)要は、発音が一つに決まればよいのである。

2.音の変化 edit

アイヌ語では、ある状況の時に音が変化することがある。

i.音交替 edit

アイヌ語では、特定の音が連続したときに、発音が変わることがある。これを「音交替」という。ただし、必ず起こるというわけではない。また、交替する音には地域差もある。

音交替
地域 変わる場合の例
t+s t+c 全域
k+p p+p 北海道北部
t+k k+k 北海道北部
p+t t+t 北海道北部
r+c t+c 全域 クコㇿ チㇷ゚ ku⹀kor cip ку⹀кор чип クコッ チㇷ゚ ku⹀kot cip ку⹀кот чип[12]
r+t t+t ほぼ全域 コㇿ チセ コッ チセ[13]
r+t n+t 北海道北部

と樺太

コㇿ チセ  チセ[13]
r+r n+r 全域
r+n n+n 全域
n+s y+s 全域
n+y y+y 全域  ユㇰ pon yuk пон йук ポィ ユㇰ poy yuk пой йук[14]
n+w w+w 主に樺太  ワ wen wa ўэн ўа ヱゥ ワ wew wa ўэў ўа[15]
n+w n+m 北海道南部  ワ wen wa ўэн ўа  マ wen ma ўэн ма[15]
m+w m+m[16] 北海道南部 イサㇺ ワ isam wa ишам ўа イサ マ isam ma ишам ма[17]

ii.音の渡り edit

イ段音やウ段音の後に母音が続いたとき、後の母音がイ段音やウ段音に引きずられてヤ行音やワ行音に変化することがある。これを「音の渡り」という。日本語でも(多くの場合無意識に)似たような 現象が起こる。

例)イオマンテ(i:それを + oman:行く + te:させる。熊などの霊送り)は、よく「イヨマンテ」と発音される。

iii.樺太アイヌ語での音節末子音 edit

北部のタライカ(敷香郡)やナヨロ(内路村)、ニイトイ(新問郡)、西海岸南部のタラントマリ(広地村多蘭泊)を除く樺太の多くの方言では音節末に立つ子音は限られ、音節末子音ㇺ/m/мは/n/нとの区別を失い、k, t, p, およびrの一部は摩擦音化しx/hになる。

例えば北海道のsések(「セセㇰ」のように発音。「熱い」の意)は樺太ではsêsex/шээшэх(「セーセㇸ」のように発音)となる。ただ、この場合も元の子音の意識は残っていて、後ろに母音が続いたとき、その子音が蘇る。itak→itaxに人称接辞がついてitak=anとなる等。

尚、音節末子音x/hは通常は日本語の「ハ行」を強くささやいた発音に似る[x]に、iの後ろでは[ç](日本語の「ヒ」を声を出さずに言った音)またはㇱに近い音に、uの後ろでは[ɸ](日本語の「フ」を声を出さずに言った音)にそれぞれ近い音で発音される。

音節末のrはxに変化するほか、前の音の母音と同じラ行音に変化することもある。(例:ウタㇻ/utar/утар「同胞・隣人」→ウタㇵ/utax,utah/утахまたはウタラ/utara/утара)

iv.h音の抜け edit

n+h+母音と続いたとき、h音が抜ける。(例:ア ヒネ an hine → アニーネ anine)

3.アクセント(高調) edit

アイヌ語のアクセントについて。日本語よりは遥かに簡単。

i.基本的な原理 edit

アイヌ語のアクセントは高低アクセントである。アクセントのある音節の後は高くても低くても良いが、アクセントのある音節の前の音節は必ず低く発音する。樺太方言や北海道の美幌方言、静内方言などではアクセントの区別ははっきりしない。

  1. 最初の音節が閉音節の場合、その音節にアクセントがある。
    • アィヌ áynu 人 | 𛅧ノ(ノ) pónno 少し
  2. 最初の音節が開音節の場合、その次(2つ目)の音節にアクセントがある。
    • 例)チセ⃣ cisé 家 | カィ kamúy 神
  3. ただし、⒉には例外もある。こを例外アクセントという。下を参照。また、樺太アイヌ語ではこの時に、アクセント部分が長音となる。
    • 例)ユ⃣カㇻ yúkar (樺太:ユ⃣ーカㇻ yūkara) ユカㇻ(神謡)[18] | サㇺ sísam (樺:シー sīsan) 和人
  4. 1音節の単語では、開音節でも閉音節でも、当然アクセントはその音節にある。樺太アイヌ語では開音節の時に長音になる。
    • 例)キ⃣ㇰ kík を叩く | プ pú (樺:プ⃣ー pū) 倉 | エ é (樺:エー ē) 食べる

アクセントは基本的に1単語につき1個だが、複合語などの場合、稀に2個以上アクセントを持つ単語がある。このとき、2つ目のアクセントの前も音を下げる。(コ⃣カニ⃣ kónkaní ко́нннкани́金、シ sirókaní широ́кани́銀など)また、付属語類(アナク anak анак ~は 等)にアクセントが付くことは通常ない。

ii.例外アクセント edit

最初の音節が開音節でも、その音節にアクセントのある単語がある。このような単語を例外アクセントの単語という。この一部を日本語訳とともに下に示した。また、このとき、樺太アイヌ語では、アクセントの部分(はじめの音節)が長母音になる(例:セィ úsey ушэй → ウーセィ ūsey уушэй)。

[このほか、閉音節の1音節単語のあとに母音始まりの1音節語がついて(1音節目が開音節で、計二音節の)単語ができるとき(例えば「マッmat」:女に「アㇰak」:弟が付いて「マ⃣タㇰmat-ak,má·tak」:妹[19]となる)、アクセントが最初の音節に来る。ただし、あとに2音節以上の語がついて計3音節以上の単語になった場合(例えば「マタ⃣パmat-apa,ma·tá·pa」妹[20])、アクセントは通常通り2音節目に来る[21]。]などの規則のようなものはあるが、一つ一つ覚えていった方が良い。

例外アクセントの単語例
カナ ラテン キリル 日本語訳
イネ íne инэ 4の
ウセィ usey ушэй
ウナ úna уна
カニ kani кани
クスヱㇷ゚ kusuwep кушуўэп ハト
クレ kure курэ 飲ませる
ケラ kera кэра
シサㇺ sísam шишам 和人
シノ sino шино 本当に
セセㇰ sesek шэшэк 熱い
サ゚ペ(チャペ) cape чапэ
チポ cipo чипо 漕ぐ
ソ゚カ(チョカ) coka чока (相手を含まない)わたしたち
タタタタ tatatata тaтaтaтa 〜を切り刻む
ツ゚キ(トゥキ) tuki туки
テレ tere тэрэ ~を待つ
トカㇷ゚ tokap токaп 昼間
トペ𛅧(トペ) topen топэн 甘い
パセ pase пашэ 重い,えらい
ペカ𛅧ケ(ペカケ) pekanke пэкaнкэ 浮かぶ
ハポ hapo гaпо お母さん
フチ huci гучи 祖母
フラ hura гурa におい
フレ hure гурэ 赤い
レラ rera рэрa
ニサㇷ゚ nisap нишaп 急に
ニナ nina нинa 薪取りをする
ヌマ𛅧(ヌマ) numan нумaн 昨日
ミチ mici мичи
ミナ mina минa 笑う
ユカㇻ yukar йукaр ユカㇻ(英雄叙事詩)
ユポ yupo йупо お兄さん

iii.アクセントの移動 edit

単語の頭に人称接辞[22]がついた場合、アクセントが移動することがある。

iv.表記の仕方「´」 edit

アクセントの表記には、(ラテン、キリル両方の)アルファベットでは、アキュートアクセント(´)を使う。カナでは定まった表記法がない。また、長音にアクセントがある場合、サーカムフレックスを付けて、アクセントと長音を表す。また、どの文字でも、状況や表記方針、人によって、

  1. 全てのアクセントを表記する。
  2. 例外アクセントの単語のみ表記する。
  3. アクセントを表記しない。

と、対応が分かれる。

①の場合の、全てのアクセントを表記するときの例を下に示した。

イソ⃣サケカムィ アナㇰ パ⃣セ カム⃣ィ ネ ルヱ ネ。 isósankekamuy anak páse kamúy ne ruwe ne. フクロウはえらいカムイなのだ。

ト リキキノ クㇷ゚キ クス クケヘ ㇻカ。 今日は一生懸命働いたので、手が痛い。(ニューエクスプレス アイヌ語〈白水社、中川裕 著〉より引用、どちらも沙流方言)

このように、カナのアクセント表記にはいろいろな方法がある。

v.付属語のアクセント edit

「anak 〜は」「yakka 〜けれど」「hine 〜して」などの付属語類は、前の単語と人まとまりでで発音されることが多く、通常アクセントは付かない。

4.符号 edit

アイヌ語でも他の多くの言語と同じように、紙に書いたとき読みやすくする為、何種類かの符号を使う事がある。

符号の例
カナ アルファベット 名前 役割
(なし) = ⹀ 人称ハイフン 人称接辞を示す(必須ではない)
. 句点/ピリオド 文末を示す
, 読点/コンマ 文の切れ目を示す
「 」 “ ” « » など 引用符 引用部分を示す
- 中点/ハイフン 複合語の繋ぎ目などを示す[23]

この他にも括弧類など、比較的自由に使われる。日本語と同じように使って良い。

アルファベット一覧 edit

母音一覧
単体 A/a I/ı,i U/u E/e O/o А/а И/и У/у Э/э О/о
鋭記号(高調のある音) ́ Á/á Í/í Ú/ú É/é Ó/ó А́/а́ И́/и́ У́/у́ Э́/э́ О́/о́
長音符(長音) ̄ Ā/ā Ī/ī Ū/ū Ē/ē Ō/ō А̄/а̄ Ӣ/ӣ Ӯ/ӯ Э̄/э̄ О̄/о̄
曲折符号(高調のある長音) ̂ Â/â Î/î Û/û Ê/ê Ô/ô
分音記号(前の音と分けて発音) ̈ Ä/ä Ï/ï Ü/ü Ë/ë Ö/ö Ӓ/ӓ Ӥ/ӥ Ӱ/ӱ Ӭ/ӭ Ӧ/ӧ
子音一覧
ラテン キリル カナ(音節末)
音素

表記

無声 有声 無声 有声
Kk Kk Gg Кк Кк Гг
Rr R̥r̥ R̬r̬ Рр Ҏҏ Рр ㇻㇼㇽㇾㇿ
Tt Tt Dd Тт Тт Дд ッ,ㇳ
Pp Pp Bb Пп Пп Бб ㇷ゚
Cc Čč / Ch,ch Žž / Jj Чч Чч Џџ / Жж (無)
Ċċ / Cc Żż / Dz,dz Цц Ѕѕ
Ss Šš / Sh,sh (無) Шш Шш (無)
Ṡṡ / Ss Сс
Hh Hh (無) Һһ Һһ / Хх (無) (ㇵㇶㇷㇸㇹ)
x x / h (無) х х (無) ㇵㇶㇷㇸㇹ
Nn Нн 𛅧,ン,ㇴ
Mm Мм
Jj / Yy / Jȷ Йй ィ,イ
Ww / Vv / Ŭŭ Ўў / Вв ゥ,ウ

キリル文字の斜体(イタリック体)には立体(ブロック体)と形状のかなり異なる文字が多くあり、読む際には(ラテン文字との混同に加えて)注意が必要です。アイヌ語で使うことがある文字について、あなたの機器での斜体の見え方を示しました。 ちなみに、斜体の元となった書体である筆記体(手で書く文字)には、国や地域、書く人や状況などによって本当に様々な形があります。立体からは想像のできないような形も数多くあり、キリル文字を学ぶ上では厄介でもあり面白くもある存在です。

アイヌ語キリル文字の斜体
А Б В Г Д Ж Ѕ И Й К М Н О П Р Ҏ С Т У Ў Х Һ Ц Ч Џ Ш Э
А Б В Г Д Ж Ѕ И Й К М Н О П Р Ҏ С Т У Ў Х Һ Ц Ч Џ Ш Э
а б в г д ж ѕ и й к м н о п р ҏ с т у ў х һ ц ч џ ш э
а б в г д ж ѕ и й к м н о п р ҏ с т у ў х һ ц ч џ ш э

下の表をコピーし、Excel[エクセル]などの表計算機構で、A1セルを選択した状態で貼り付けてください。アイヌ語入力でのキリル文字変換が出来ます。(音素表記での変換。ハ行、サ行、カ行などは自分の好みで変えてください。また、少しいじれば好みの表音式表記にすることもできます。)

A А =SUBSTITUTE(C2,A1,B1) iránkarapte! IRÁNKARAPTE! =SUBSTITUTE(C2,A1,B1)
Á А́ =SUBSTITUTE(C3,A2,B2)
Ā А̄ =SUBSTITUTE(C4,A3,B3)
Ä Ӓ =SUBSTITUTE(C5,A4,B4) ↑ここに入力 ↑変換後
a а =SUBSTITUTE(C6,A5,B5)
á а́ =SUBSTITUTE(C7,A6,B6)
ā а̄ =SUBSTITUTE(C8,A7,B7)
ä ӓ =SUBSTITUTE(C9,A8,B8)
I И =SUBSTITUTE(C10,A9,B9)
Í И́ =SUBSTITUTE(C11,A10,B10)
Ī Ӣ =SUBSTITUTE(C12,A11,B11)
Ï Ӥ =SUBSTITUTE(C13,A12,B12)
i и =SUBSTITUTE(C14,A13,B13)
í и́ =SUBSTITUTE(C15,A14,B14)
ī ӣ =SUBSTITUTE(C16,A15,B15)
ï ӥ =SUBSTITUTE(C17,A16,B16)
U У =SUBSTITUTE(C18,A17,B17)
Ú У́ =SUBSTITUTE(C19,A18,B18)
Ū Ӯ =SUBSTITUTE(C20,A19,B19)
Ü Ӱ =SUBSTITUTE(C21,A20,B20)
u у =SUBSTITUTE(C22,A21,B21)
ú у́ =SUBSTITUTE(C23,A22,B22)
ū ӯ =SUBSTITUTE(C24,A23,B23)
ü ӱ =SUBSTITUTE(C25,A24,B24)
E Э =SUBSTITUTE(C26,A25,B25)
É Э́ =SUBSTITUTE(C27,A26,B26)
Ē Э̄ =SUBSTITUTE(C28,A27,B27)
Ë Ӭ =SUBSTITUTE(C29,A28,B28)
e э =SUBSTITUTE(C30,A29,B29)
é э́ =SUBSTITUTE(C31,A30,B30)
ē э̄ =SUBSTITUTE(C32,A31,B31)
ë ӭ =SUBSTITUTE(C33,A32,B32)
O О =SUBSTITUTE(C34,A33,B33)
Ó О́ =SUBSTITUTE(C35,A34,B34)
Ō О̄ =SUBSTITUTE(C36,A35,B35)
Ö Ӧ =SUBSTITUTE(C37,A36,B36)
o о =SUBSTITUTE(C38,A37,B37)
ó о́ =SUBSTITUTE(C39,A38,B38)
ō о̄ =SUBSTITUTE(C40,A39,B39)
ö ӧ =SUBSTITUTE(C41,A40,B40)
K К =SUBSTITUTE(C42,A41,B41)
k к =SUBSTITUTE(C43,A42,B42)
S Ш =SUBSTITUTE(C44,A43,B43)
s ш =SUBSTITUTE(C45,A44,B44)
C Ч =SUBSTITUTE(C46,A45,B45)
c ч =SUBSTITUTE(C47,A46,B46)
T Т =SUBSTITUTE(C48,A47,B47)
t т =SUBSTITUTE(C49,A48,B48)
P П =SUBSTITUTE(C50,A49,B49)
p п =SUBSTITUTE(C51,A50,B50)
H Һ =SUBSTITUTE(C52,A51,B51)
h һ =SUBSTITUTE(C53,A52,B52)
X Х =SUBSTITUTE(C54,A53,B53)
x х =SUBSTITUTE(C55,A54,B54)
R Р =SUBSTITUTE(C56,A55,B55)
r р =SUBSTITUTE(C57,A56,B56)
N Н =SUBSTITUTE(C58,A57,B57)
n н =SUBSTITUTE(C59,A58,B58)
M М =SUBSTITUTE(C60,A59,B59)
m м =SUBSTITUTE(C61,A60,B60)
Y Й =SUBSTITUTE(C62,A61,B61)
y й =SUBSTITUTE(C63,A62,B62)
W Ў =SUBSTITUTE(C64,A63,B63)
w ў =SUBSTITUTE(D1,A64,B64)

脚注 edit

  1. キリル文字の場合、アポストローフ以外の記号が正確に表示できないことも多いため、これらの記号を使わない方法で表記することは多い。
  2. øはその部分に子音がないことを表す。アイヌ語で使われることはないが、表を埋めるため、便宜的に使用した。Ꞌ/ꞌは前の音とはっきり区別する時などに発音される[ʔ]の音。(日本語にもよく現れる。)無くても意味は変わらない。
  3. yeに𛄡を使用した時に、見間違いを防ぐために使う。日本語では古く(eとyeの区別が無くなった平安時代初期)に使われなくなった。
  4. この音は存在せず、tとiが連続した時はチ/ci/чиになる。
  5. 北海道北部方言では、アクセントのある音節でサ゚(チャ)/ca/чаに変化する。
  6. 軟母音字(я,е等)は固有名詞などのごく一部の例外(例:東京はТоўкёўトゥキョゥのように表記することがある)を除いて使わない。
  7. 7.0 7.1 yやwの後にiやuが連続するとき等に現れるが、iやuと別の音節として存在するかは意見が分かれている。
  8. 複合語や一部の擬音語・擬態語にのみ存在する。(例:kirikewihri キリケウィヒリ(略)股の関節kirikew-ihri(略)[kirikew(上肢)+ihri(関節)] 』) ただし、wとiの間を分けて発音することが多い。(例:『uciw-itara [u-ciw-itara 互い・にささる・(状態が続いていることを表す接尾辞)][雅](いくすじもの光が)互いに反射し合いきらめき合う。(中略)☆参考 wi ウィ という発音がないため、 w ウ と i イ の間で音節を分けて発音している。 』)出典:国立アイヌ民族博物館アイヌ語アーカイブ
  9. 母語話者たちにはほとんど分かりませんが、日本語のラ行もかなり複雑です。
  10. IPA(国際音声記号)で表すと、[s]から[ʃ]の間の音で発音される。[ɕ](日本語のシャ行の音)などもこの音の範囲に含まれる。
  11. 二個目の音にアクセントがあるので、一個目とは別の音だと明らかであるため。
  12. 私の舟
  13. 13.0 13.1 意味:彼の家。
  14. 小さな犬
  15. 15.0 15.1 悪くて
  16. 起こることが少ない。というか、本当に起こるのか確認できていない。
  17. せずに
  18. 樺太では単に「歌」という意味。
  19. 姉から見た妹。
  20. 兄から見た妹。「アパ」は元々「親戚」という意味。
  21. 角括弧で囲まれたこの部分の内容は、少数の例から勝手に類推しただけで、正しいのかが分かりません。これについて説明している本などがあれば、それを「リンク」に記してこの脚注を消してください。当てはまらない例があった場合、この部分そのものが間違いなので、この部分を早く消してください。
  22. 動詞や名詞などについて、誰の動作や物かを示す部分。アイヌ語の学習で特に大事なものの一つ。x章のx回(未定)で詳しく説明する。今は読み流すだけでもよい。
  23. 語の切れ目を分かりやすくするために、学習用に使われることが多い。

参考文献とリンク edit